『八重の桜』レビュー 第十一回「新島襄は二度死ぬ」

さて、今回はいろいろと立て込んでいてざっと観る余裕しかありませんでしたが、第十一回は八重の弟の三郎weekでした。踊る大走査線や相棒のように脇役をスピンオフさせて劇場版でも公開する魂胆でしょうか。八重の桜をご覧になっていない方もおられるかもしれませんので純粋な親切心から説明しておきますと、三郎役は男闘呼組前田耕陽さんが醸し出す若干軽薄な感じを濃い塩水でざっと洗い流した後に少しだけ油を塗込んだ感じの男前の方なんですが、先ほどちゃちゃっと調べてみましたところなんとあの野球の工藤公康さんの息子さんということでびっくり仰天してしまいました。役の上では第十一回の段階で16歳ですが、実際は21歳だそうです。お父さん譲りの緩い縦のカーブのような台詞回しが特徴的です。


とか書いていたら、新幹線の車窓から恐竜が見えてきましたが気のせいでしょうか? 浜松と掛川の間くらいの場所だと思います。詳しい方がいらしたらはてなスペース「静岡の恐竜」で解説お願いします。脱線してしまいました。脱線ついでにもうひとつ言わせていただきたいのですが、静岡って現代科学の力とかでもう少しコンパクトにならないでしょうか。安倍政権はiPS細胞で静岡を一から再生するプロジェクトに57兆円くらいは配分してほしいものです。


話を元に戻しますと、会津藩士に佐川官兵衛という人物がおりまして、なかなか腕の立つお侍さんなんですが、とある事件を起こしたとかで謹慎しておりました。官兵衛の演じているのは中村獅童さんなんですが、官兵衛の謹慎の理由は女性問題とかではありません。ややこしいですね。ややこしくないですね。この官兵衛の謹慎が解けまして、京都で苦戦している会津の殿様をお助けする別働隊を率いることになりまして、会津に残った腕の立つ若い衆を募集することになりました。


三郎はこの官兵衛の部隊に志願して京に上りたいと父親に願い出ます。だけんじょ、お父さんは「門前の小僧習わぬ経を覚える」の一点張り。じゃなくて「ならぬものはならぬ」の一点張りで三郎の志願を許しません。16歳ではtoo youngだというわけです。だけんじょ、三郎は全然納得いかない様子でいるもんだから、八重が「まあ手柄を焦る気持ちは分かるけど、低視聴率でも頑張ってる私を見習ってあんたも辛抱しなさいよ」みたいなことを言うと、三郎は「あんたに俺の気持ちが分かるか!お前はその歳で大河の主役だろうが!」みたいな強烈な反発をするもんだから、八重もびっくりするわけです。


誰の理解も得られない三郎はついにお父さんの許可を得ないまま勝手に官兵衛の部隊に志願してしまいます。しかし、官兵衛は官兵衛で、三郎の強い思いにほだされる部分はあったんですが、やっぱり16歳ではtoo youngだからあかんというわけです。16歳の子に命を捨てさせるわけにはいかないというわけですね。これはまあ後々の会津の悲劇に向けた伏線という意味合いもあるのでしょう。


結局この志願の話がお父さんの耳にも入ってしまって、父子関係はさらにギクシャクしてしまいます。自分の思いを持て余した三郎は、現代であればこのまま盗んだバイクで走り出したりすればいいわけなんでしょうけれども、なにせ当時はバイクもないですから、そのまま家でふさぎ込んでおるわけです。不穏な空気が漂う山本家だったわけですが、ここでうまいこと三郎の秘めたる思いを聞き出して、ギクシャクした父子関係の仲介役を果たすのが式守伊之助ではなく、川崎尚之助なんですね。三郎曰く、尚之助の仕官の件(尚之助は他藩の出身で仕官を願い出ているが許可がなかなかおりない状況)も、新式銃採用の件(尚之助が銃の改良を進めておりこの改良した銃を藩に採用してもらえるように願い出ているがこれもなかなか許可がおりない)も今の自分の身分ではなんの力にもなれない。鉄砲方(山本家は会津藩の砲術方)というのは会津では一段低く見られていて上層部に意見しても聞く耳を持ってもらえず苦労している父親の姿を見ているから、自分が少しでも早く取り立てられて上層部に具申できる立場にならねばならないという気持ちがあることなどを語りだすわけです。そんなこんなで山本家のメンバーも三郎の思いを知り、山本家の父子関係は劇的に改善するわけですが、京都は大変です。前回の池田屋事件で長州が怒っちゃって京都守護職松平容保に狙いをさだめて京都制圧に向けて動き出します。


まず孝明天皇に開国を説く佐久間象山が暗殺されます。京都の町中を白馬に乗って進んでいるところを襲われるのですが、侍に囲まれて象山が斬りつけられているにもかかわらず象山を乗せている馬は微動だにしません。あれには心底驚かされました。動物プロダクションの教育が行き届きすぎたということでしょうか。難しいところです。


それはそれとして長州勢は軍勢を増し、いよいよ京都近くに集結し中心部に迫る勢いです。この勢いについては私とて認めないわけではないのですが、山口に住みついた経験はないものの親戚が何名かいる関係で長州の事情が若干分かる者として今回の長州藩士のキャスティングについては一言言わせていただきたいと思います。独断と偏見を完全に排して客観的な事実関係のみを申しますが、古代から現在に至るまで「長州にイケメンなし」と言われるように、歴史上、長州にイケメンが存在した事実はございません。そうした事実を完全に無視した上に、久留米出身の真木和泉だけを我らが嶋田久作先生に割りふるというキャスティングはいかがなものでしょうか。アベノミクスに対する配慮なのか鳩山家に対する当てつけなのか理解に苦しむところではありますが、とりあえず山口県民の方に深くお詫び申し上げます。


さて疑惑のキャスティングについては今回はこれくらいにするとして、勢いに乗る長州勢に対して覚馬、大蔵、平馬の三人が長州の思惑を探るべく、長州軍が陣をかまえる天王山(だったと思う)に潜入し忍たま乱太郎のようなミニコントを見せたりもしますが、ここは武士の情けで深くは論じません。また、例によって人をイライラさせることにかけては天賦の才を示す徳川慶喜は長州を討つ気があるのかないのかのらりくらりと態度をはっきりさせないばかりか責任をひとり会津に押し付けるような発言をして会津をイライラさせて、視聴者をもイライラさせてしまいますが、ついに孝明天皇が長州討伐の断を下します。というところで第十一回は終了です。いよいよ次回、京都を舞台にした内乱が始まってしまいますが、最後に不評連載企画「今週の新島襄」で締めたいと思います。




前回までの新島襄

  • 子役で出てきて豚の絵を描き、元水球日本代表の西郷隆盛に褒められる場面が一瞬描かれる(第二回)
  • その後、長らく行方不明となり、死亡説が出回る
  • 前回久しぶりにほっかむりして登場。アメリカの船に密航する場面が一瞬描かれる。

今週の新島襄

  • またしても出番なし。おそらくアメリカに向かう途中で遭難したと思われる。