ブラジル第2の建国と徳川埋蔵金

オランダ戦でのスペインの5失点という結果により時空が歪んでしまったと月刊ムー的な解釈をすべきなのか。あるいは地元開催で意気あがるはずのブラジルの息があがってしまったと笑点大喜利的総括に甘んじるべきなのか。空気が読めないというドイツの民族的特性が招いた悲劇であると品のないエスニックジョーク風に誤魔化すべきなのか。どうするべきなのか私には答えが出ないが、とにかくブラジルは敗れ去った。


もちろん、大会前にペレがブラジルの優勝を高らかに予言してみせた時点でブラジル優勝の芽は摘まれていたことは私とて既に知ってはいた。しかしその負け方は想像を絶するものであった。「歴史的」という言葉が「敗北」の枕詞としての意味しか持たなくなって久しい我が国において、まさに文字通りの、掛け値なしの歴史的敗北というものに接する機会が実際に訪れることを想像すらしていなかったのはセルジオ越後ただひとりだけではあるまい。ジョー小泉しかり、マイク真木しかり、サムソン冬木しかり、エスパー伊東しかり、であろう。


今まさにブラジルという国家自体の存立が危ぶまれている。これから訪れるであろうブラジル国内の混乱に乗じて、南からはメッシ率いるアルゼンチンが、北からはハメス・ロドリゲス率いるコロンビアがそれぞれ侵入してブラジルが南北に分断されるという事態が現実味を帯びてきている。南米大陸の雄は、その分裂を回避し、次回のW杯開催地ロシアにおいて第二の建国を高らかに歌い上げることができるのであろうか。このブラジル人民が置かれた絶体絶命の状況に幾ばくかでも同情を寄せるのであれば、今こそ地球の裏側にいる我々こそが声をあげねばなるまい。「ブラジルのひと、聞こえますか?」と。


地球の裏側まで声が届くわけがないと言って冷ややかな視線を向けるシティボーイズ達よ、「到達不可能なものへの到達」こそがまさに祈りの定義そのものであったことを今一度思い出すべきだ。危機に立たされたブラジルの名もなき人民のためにともに祈りを捧げようではないか。一次リーグであっさり敗退した国民の哀れみにいかほどの意味があるのだと笑うカントリーガールズ達よ、確かにそれは一理あるね。しかし、祈りは上から下だけに流れていくものではないという歴史的事実を思い出してほしい。バスに火を放つブラジルの民のためにともに祈りを捧げようではないか。


もちろんセレソンたちの犯した「罪」が日本人の祈りだけで贖われるわけではないことくらいは私とて理解している。感情論だけではなく、具体的なブラジル再建プランがあるからこそこの記事を書いているのだ。時間の都合上詳細は省かせていただくが、今回の「大罪」の贖いにはある種の巡礼が必要であることは明らかだ。時間の都合上詳細は省かせていただくが、セレソンはこの巡礼の過程で彼らが喪失したものを象徴的な意味で再発見する必要がある。時間の都合上詳細は省かせていただくが、その象徴的再発見の旅の候補地の筆頭として赤城山があがって来るのは明白である。セレソン徳川埋蔵金を発掘するのだ。


もちろんここで徹底したリアリズムを信条とする面々から、そもそも日本の地理に不案内なセレソン赤城山にたどり着くことすらできないのではないか(日本人でもたどり着けそうにないのに)という批判が出るであろうことは私とて予想している。しかし反射的にそうした批判を口にしてしまう人たちは思いだすべきだ。今のセレソンにはフッキがいる。フッキは18歳の時に日本にやってきて、やりたい放題してポルトガルに行ってしまったという輝かしい経歴を誇っている。まず、日本に詳しいフッキを先頭にリオ・デ・ジャネイロをたち赤城山に向かう。そして苦労の果てに、現在の価値で570兆円をはるかに超えると言われている徳川埋蔵金を探し当てる。彼らはその足で新潟に向かい船に埋蔵金と魚沼産のコシヒカリを積みこんでナホトカに渡る。脚気が怖いので精米はしない。


こうしてロシア東岸に上陸したセレソンは、日本だけではなくロシアにも詳しいフッキを先頭に、圧倒的な資金力を背景にロシア軍を圧倒して西進を続け、ついにはモスクワに侵入する。モスクワでは、日本にもロシアにも詳しいフッキと、森喜朗よりは柔道が強いと噂されるプーチンとの男と男の対決があり、フッキが圧勝する。こうしてロシアを完全に制圧したフッキ率いるセレソンはモスクワの地で徳川幕府の再興に成功する。喜びに沸くセレソンはフッキを徳川16代将軍に据える。ブラジル中が喜びに沸いているためフッキは16代将軍徳川沸喜(とくがわふっき)と名乗ることになる。こうして想像を絶する苦難を乗り越え、四年という歳月をかけてロシアでの徳川幕府再興という目的を達成したセレソンたちの精神力はワールドカップロシア大会できっと花開くであろう。決勝の舞台でドイツに21対0で大勝するセレソンの姿がまざまざと目に浮かぶ。おめでとうセレソン。あなた方は危機を乗り越えて再び世界の頂きにたったのだ。