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なんでも(笑)と付ければいいという風潮を嘆く

もういい大人なのだから、たとえつらい現実があったとしてもそれを笑いに昇華するぐらいのことができなければという思い込みのせいだろうか。なにごともポジティブに捉える方がまわりの人から好まれるのではないかという打算もあったかもしれない。こんな場合に手っ取り早い手段が、文末にひたすら「(笑)」をつけるというやり方だ。一瞬ですべてを笑いに変える魔法のように思えた。


しかし、最近になって、どうやらそれにも限界があるのではないかと思うようになった。あまりにも無理やりに笑いに変えようとすると、ユーモアがあるというよりも、ただ単に頭がおかしくなったのではないかと勘ぐられてしまうのだ。


具体例を挙げてみよう。

先日、15年来家族同然の暮らしをしていた愛犬が車にはねられて死んでしまった。即死だった(笑)

笑う必要などないからただただ悲嘆にくれてほしいと思う例だ。



また、切ない短歌などもニュアンスががらりと変わってしまうので注意が必要だ。石川啄木の歌を例に引いてみる。

はたらけど はたらけど猶 わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る(笑)

笑ってるし。



それから(笑)をつけたばかりに、コイツふざけてんのかと誤解されてしまう場合もあるのでこれも注意を要する。例えば、かなり前になると思うが、大阪府警(だと思う)が痴漢防止の啓発活動に「痴漢アカン」というキャッチコピーを用いていた。これはもうそれ自体ふざけているニュアンスもあるのだが、ここにさらに(笑)をつけるともう完全にアウトだ。

痴漢アカン(笑)

痴漢を呼びかけるゆるキャラのつぶやきのようだ。


このように場合によっては致命的にもなるわけだが、こうした性質に着目すると、単なる真面目なメッセージが、逆に味わい深くなる場合も考えられる。ここでは株式会社はてなの会社情報に載っていた「はてなのミッション」という文章の冒頭部分に注目してみよう。

はてなは、人と人とのコミュニケーションを促進し、価値ある情報をより多くの人に届けることを使命としています。

これはこれで真面目なはてならしさが出ているのだが、ここに(笑)を付加してみるとどうなるだろうか。

はてなは、人と人とのコミュニケーションを促進し、価値ある情報をより多くの人に届けることを使命としています(笑)

どうだろう。「実態は全然違うけどなニヤリ」みたいなニュアンスが醸しだされて、単なる真面目というイメージにちょっとおしゃれなテイストが加わっているのが分かる。これなら「おっ、ちょっとはてなハイクでも始めてみようか。はたなの社長すらやってないみたいだけど(笑)」みたいな若者が最低でも8億人くらいは出てくるかもしれない。企業に限らず個人もこうした効果は積極的に狙っていくべきだろう。



ただし、これも程度の問題で、次のような事例では、なにやら小馬鹿にしているような印象を与え、本来の目的を果たさなくなっていると思われるので避けたほうが無難であろう。

48歳、朝からみなぎる(笑)

釈由美子さんも絶賛(笑)

オリンピック招致(笑)



また、どの文脈で笑っているのか分からないような用い方も、読み手の不安感を煽ることになるので注意が必要だろう。以下はネットで見かけた記事の文末に勝手に(笑)を付加してみたものだ。

外務省の杉山アジア大洋州局長は、日本を訪れているアメリカ国務省のデイビース特別代表と会談し、飯島勲内閣官房参与の北朝鮮訪問について説明したうえで、「北朝鮮との対話は、あくまでも非核化に向けた対話であるべきだ」という認識で一致しました(笑)。

このケースは、どこが笑いどころなのかが明確でないため、ひょっとすると世間では常識のようになっているのに実は自分だけが知らない事実があるのではないかと疑心暗鬼になってしまう。以下のような事例も同じカテゴリーに含まれると考えて良いだろう。

環境省の野生生物小委員会は15日、野生のウズラを「希少鳥獣」に指定することを正式決定した。同省は6月下旬に関係省令を改正する。家禽かきんのウズラは対象外なので、卵の流通に影響はない(笑)。

例えば、夫が亡くなり、配偶者である妻と子ども2人がその財産を相続する場合、「3000万円+600万円×3=4800万円」を超えると、相続税が課せられる可能性があるというわけです(笑)。



最後に単なる変換ミスが思わぬ効果を生み出してしまう例を指摘して注意を喚起しておこう。次のようなケースだ。

今年の阪神悪くはないけど、クリーンアップが固定しないとアカンよな(新井)

あまり時間がないので結論だけ述べると、やみくもに(笑)をつけても、必ずしもすべてが笑いに変わるわけではないので、TPOなどを充分に考えた上で慎重に用いるのがよかろうと思われます。それではよい週末を。