百人一首の過小評価を嘆く
百人一首の存在は皆さんもちろんご存知でありましょう。しかし、百人一首に備わる力が世界中の人々に十分評価されているかというとどうにも心許ないという気がしてなりません。教育の現場でも百人一首についてその凄さをしっかりと伝える努力がなされてきたのか甚だ疑問なわけです。そこで今回は、百人一首がいかに凄いかということを私なりのアプローチで示してみようと思ったわけです。
方法は非常にシンプルであります。百人一首の三番歌は「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む」であります。柿本人麻呂の名歌なわけですが、私はこの歌の下の句「ながながし夜をひとりかも寝む」が特に素晴らしいと常々感じておりました。そこで今回は百人一首のすべての歌の下の句を「ながながし夜をひとりかも寝む」に変えてしまおうと思いたったわけです。
早速行ってみましょう。まずは天智天皇の一番歌からチェケラ。
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ ながながし夜をひとりかも寝む
(意訳:秋の田のそばにやっつけで作った庵のむしろがスカスカやねん。せやから長い夜を一人で寝なあかんのかな)
まず天智天皇は関西人だと聞いたことがあるので関西弁にしてみたがそこは本質的なところではないので置いておきましょう。この歌で最も論議を呼びそうなのは論理の飛躍である。「庵のむしろがスカスカ」という部分と、「長い夜を一人で寝ることになる」という部分との論理的つながりが欠けています。
ところが、であります。こうした大きな欠陥があるにもかかわらず、歌全体として鑑賞してみると、底知れぬ魅力が感じられるからあら不思議です。論理の飛躍によって逆に最高権力者としての「天皇の孤独」というものがヒシヒシと伝わってくるのであります。さすがは天智天皇。恐るべし百人一首。
いきなり百人一首のポテンシャルの高さを示してしまったようですが、怯むことなく二番歌に進んでみましょう。次は持統天皇であります。
春過ぎて夏来にけらし白妙の ながながし夜をひとりかも寝む
(意訳:春が過ぎてもうて、もう夏やないか。しかしまっ白やな。言うても長い夜を一人で寝なあかんのかな)
まず何が白いのか分からない。夏が来たと思ったら白。春夏白。しかも夏だから夜は短いはずだろ。全体としての筋が通っていない。
ところがである。こうした大きな欠陥があるにもかかわらず、歌全体として鑑賞してみると、大きな欠陥を補って余りある底知れぬ魅力が感じられる。論旨が破綻していることによって、逆に「ああ、天皇だからすべて許されたんだな」という宮中の緊張感がヒシヒシと伝わってくるのだ。泣く子と持統には勝てないと大津皇子が言ったとか言わないとかよく知らんけどさすがは持統天皇。恐るべし百人一首。
続いて三番歌。柿本人麻呂。
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
(意訳:鳥の尻尾ナゲー。夜もナゲー。しかもボッチ。)
これはまあそのものずばり。さすがは人麻呂。百人一首の宝石箱や〜。それ彦摩呂。恐るべし百人一首。
田子の浦にうち出でて見れば白妙の ながながし夜をひとりかも寝む
(意訳:田子の浦に出てみてんけど、まっ白やないかwww。まあ今日も長い夜になるんやろなwww)
紀貫之が、柿本人麻呂と並び立つ存在として評価した山辺赤人だが、やはりこれは流石の一言。「田子の浦と言、え、ば〜?」「田子の浦に出て白いものが見えたと言、え、ば〜?」とねっとりとした前フリをしておきながら、それが何なのかは明かさない。大事なことを明かさずに、なぜか半笑い。そしていきなり夜の話につなげる。これはもう名人にしか出せないロックテイストであろう。さすが赤人。恐るべし百人一首。
興奮冷めやらぬ間に五番歌。猿丸大夫。実在が疑われているらしい。たくさん歌を作ったのに後世に一句も伝わっていない実在の人が多数いる中で、実在しないのに歌が伝わるというワイルドさ。我々凡人も是非見習いたいところだがどうやったら見習えるのか分からないのでとりあえず話を歌に戻す。
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の ながながし夜をひとりかも寝む
(意訳:この前な、山行ってん。いやいや「やぱいって」とか言うてないし。山や、山に行ってん。そしたらそこで鹿が泣いとったわ。あれもまあ寂しい夜を過ごすんやろか)
どうだろうか。いつのまにか寂しい鹿の話になっているのにお気づきだろうか。英語にすると lonely deer。英語にしたついでに「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の ながながし夜をひとりかも寝む」をGoogle翻訳してみたら「No one may sleep a night, drawn-out deer rather than push through foliage Okuyama.」と返してきた。集団的不眠症の話に変わっている。なめてんのか。日本文化に対するグーグルの無理解に怒りの念を禁じえない。それはさておき猿なのに鹿の心配。さすが猿丸大夫。恐るべし百人一首。
さて、ここまでで5首を取り上げました。たった5首ではありますが、私自身百人一首のポテンシャルの高さ再認識したところです。太古の地球、恐竜が跋扈していた時代に、神国日本でここまで高度な文化が確立されていたという事実に呆然としている状況であります。呆然とした状態でこれを書いてしまったわけではありません。言われる前に言っておきました。というわけで神国日本の総理大臣である安倍さんも、もっと自信を持って、日本でAKBといううら若き少女たちが恋愛禁止で頑張っているのですから、オバマ大統領にFBIやCAIの恋愛禁止を要求するくらいの覚悟で外交に望んでほしいものです。それでは第一回目はここまでに致します。
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